著作権侵害は、基本的に親告罪、つまり、告訴がなければ公訴提起(刑事裁判をすること)ができない犯罪となっています。
ただし、親告罪であっても、人の著作物を不正に利用するのは著作権を侵害しており、もし、自分が公開した内容が著作権侵害であることに気づいたら、一刻も早く、その内容を削除(または変更)することが必要です。そうすることで、著作権者からの告訴も未然に防ぐことができます。
(注)私の経験ですが、以前、インターネットで公開されている内容で、会社の教育資料にどうしても利用したい場合がありました。このときは、公開されている方に、利用したい旨を連絡し、了解を頂いた上で利用しました。
なお、著作権侵害がどう罰せられるかが、文部科学省の以下の記事に詳しく書かれています。主観を排除するため、この内容をもとに、著作権侵害がどのように罰せられるかを説明します。
文化審議会 著作権分科会 法制問題小委員会(第2回)議事録・配付資料 [資料5]-文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/07042304/004.htm
著作権法において、基本的な権利である、著作権・著作者人格権・出版権、実演家人格権及び著作隣接権は「親告罪」になっています。
これらは、私権であって、刑事責任を追及するかどうかは被害者である権利者の判断に委ねることが適当で、被害者が不問に付することを希望しているときまで国家が主体的に処罰を行うことが不適切であるためです。
ただし、以下の内容は非親告罪となっています。
・死後の人格的利益の保護侵害(第120条)
・技術的保護手段を回避する装置・プログラムの公衆譲渡等の罪(第120条の2第1号及び第2号)
・出所明示の義務違反(第122条)、著作者名を偽る罪(第121条)である。
なお、知的財産戦略本部会合(第16回)「知的創造サイクルの推進方策」(平成19年3月29日)によると、海賊版対策の更なる強化を図る為、海賊版の販売行為など著作権法違反行為のうち親告罪とされているものについては、非親告罪の範囲拡大を含め見直しを行い、必要に応じ法制度を整備するとなっています。
今後、著作権侵害における親告罪・非親告罪の適用範囲が変更になる可能性もあります。
また、2015.7.25現在、TPP交渉でも「非親告罪」に統一する方向で最終調整に入っており、今後、大きく変化することも予想されます。
■著作権者の告訴なくても起訴可能に TPP交渉で調整 (2015年7月25日付 朝日新聞)
2015年7月25日付の朝日新聞によると、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で、参加12カ国が著作権侵害に対する刑事手続きについて、著作権者の告訴がなくても捜査当局が起訴できる「非親告罪」に統一する方向で最終調整しているそうです。
交渉では、米国が他国に出回っている海賊版や模倣品が摘発されやすくなるように、自国と同じ「非親告罪」への統一を主張。参加国のなかで親告罪を採用するのは日本とベトナムだけで、日本は米国の主張を受け入れる方向で検討に入ったとのこと。
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■ 親告罪と非親告罪の著作権上の規定
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著作権侵害等については親告罪とされていますが、著作権法には非親告罪の規定も存在します。
■親告罪とされるもの
第119条第1項・・・・・・著作権、出版権又は著作隣接権に対する侵害
第119条第2項第1号・・・著作者人格権又は実演家人格権に対する侵害
第119条第2項第2号・・・営利目的による自動複製機器の供与
第119条第2項第3号・・・侵害物品を頒布目的により輸出・輸入・所持する行為
第119条第2項第4号・・・プログラムの違法複製物を電子計算機において使用する行為
第120条の2第3号・・・・権利管理情報営利改変等
第120条の2第4号・・・・国外頒布目的商業用レコードの営利輸入等
第121条の2・・・・・・外国原盤商業用レコードの無断複製
第122条の2第1項・・・・秘密保持命令違反
■非親告罪とされるもの
第120条・・・・・・・・・・・・著作者・実演家死後の人格的利益の保護侵害
第120条の2第1号及び第2号・・・技術的保護手段を回避する装置・プログラムの公衆譲渡等
第121条・・・・・・・・・・・著作者名詐称複製物の頒布
第122条・・・・・・・・・・・出所明示の義務違反
《補足》何故 親告罪か?
【TPP】著作権非親告罪化 現状の解説まとめと、諸外国と他法域の比較から検討
http://ipfbiz.com/archives/tpp_copyright.html
このサイトの説明によると、一般的に、親告罪とする理由は、大きく3つに分類されています。
①犯罪の軽微性
②被害者の名誉等の保全
③家族関係の尊重
著作権侵害が親告罪とされている理由は①の類型に近く、さらに、著作権法の保護法益は私権的側面が強く、刑事責任を追及するかどうかは権利者の判断に委ねることが適当という考え方と、行政的な理由があると言われています。
なお、特許権侵害は、以前は親告罪でしたが、平成10年法改正で非親告罪とされました。特許権者のほとんどが法人となり人格権の保護という色彩がなくなり、特許権の保護に公的性格の高まりがあったため非親告罪となったようです。
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